【報告】町づくりプランナー養成塾

これからの郊外住宅を考える実践的なイベントとして、「里山のある町角研究会」主催(町の工務店ネット・手の物語協賛)の『町づくりプランナー養成講座』が、4月9日〜10日、春光のもと、茨城県つくば市において開催されました。

課題地に建つ民家での講義の様子

塾長に、里山住宅博の緑のディレクター、アクロス福岡の緑の設計などで知られる、ランドスケープデザイナーの田瀬理夫さんを、講師には現代町家シリーズで、一軒の家にとどまらず、街角単位での設計を得意とする、建築家・趙海光さんを迎え、福岡や愛媛などの遠方からの参加者も含め20名が、実際に存在する場所を対象とした2つの課題に挑みました。

建築家・趙海光さんによる課題説明

1つ目の課題地は、千葉県柏市にある、生産緑地303坪。
こちらは、地権者の事情により生産緑地が解除され、販売されることとなった土地です。2022年より、多くの生産緑地が解除されることとなり、都市部の緑のバッファである生産緑地に利益優先の小さな建売住宅が並ぶのは、目を覆いたくなる光景です。そうならないよう、町をつくる工務店と地権者が手を取り合い、後世に誇れる豊かな町角を残していこうというのが、「里山のある町角」の取り組みであり、その最先鋒としてのケース・スタディです。

実際の課題地(千葉県柏市)

この土地に、4件の「新農家住宅」をプランします。概略の説明後、参加者の筆が動き始め、会場が静寂に包まれました。コツコツとエンピツの音だけが響き渡ります。
講師の趙さんは、会場を歩きまわり、参加者にアドバイスや問いかけを行います。少人数のイベントだからこそ、密なコミュニケーションが取れるというメリットがあります。

会場を歩き回り、参加者に声を掛ける趙海光さん

わずか1時間程で、素晴らしい案がいくつもまとまり、全員での分かち合いへと移りました。
ワークショップが深まるうちに、この土地の課題は、一番奥の住宅だということが見えてきます。手前3軒は素敵にまとまりますが、最奥の1軒が取り残されがちになってしまうのです。また、各戸の接道をどう取るかなど、多くの案が提出され、講師の趙さんにも新しい発見があった様子。参加者も、いろいろな案に触れることによって、視野が広がったようです。

課題地(茨城県つくば市)

2つ目の課題地は、茨城県つくば市にある、区域指定(都市計画法34条11号地域)の土地です。市街化調整区域でありながら、誰でも住宅や一定の小規模な店舗や事業所を建てられる、通称11号地域です。
地権者の一人であり、桜中部地区町づくり協議会の会長でもある塚本康彦さんの案内による、現地の散策から課題が始まりました。
遠くに美しく筑波山を臨むつくば市大(おお)の街。旧家も多く残る、田んぼに囲まれたこの集落は、現在は兼業農家ばかりで、専業はないとのこと。すぐそばを流れる桜川から水を引いていますが、大きな水害もなく、台風も避けて通る地域で、とても恵まれた地域であることなどを、歩きながら、塚本さんより解説をいただきました。

塚本さんの案内による、現地散策の様子

散策を通じて、「旧家の残る集落の中でも、ここは道幅がとても広い。裕福な集落だったに違いない。」と分析する声も聞こえました。
課題は、この区域の一角約1,200坪の土地です。現況は畑ですが、この土地の利用を考えた時、ここにどんな「新農家住宅」の町角を計画すべきなのか。今回は、土地は定借とする前提としました。
課題地は広く、1区画300㎡以上とするといったルールだけの漠然とした問いかけに、戸惑いを隠せない参加者。「細かいルール(規制)の中で考えるのではなく、自分ならここにどんな町をつくりたいか、まずはそういう単純な問いかけから入ってほしい」という塾長の田瀬さん。
どういう風に進めようか、少しずつ話をする中、参加者のペンが動き始めました。昼食を挟むものの、みんなすぐに机に戻り、再び課題に向きあいます。こちらも、短時間で多くの案が出揃いました。
畑への日当たりを重視したプラン、納屋を中心としたユニットプランなど、塾長も目をみはる案も多く見受けられ、参加者も多くの気づきを得ました。

自らもプランを引く、塾長の田瀬さん

イベント後、それぞれの地域に戻った参加者が、これからの郊外型住宅、また町角を考える時、こういう頭の使い方が必要なのだということをしっかり学べたのではないでしょうか。
今回の取り組みは、まだ先例を持たない新しい用途地域「田園住居地域」を見据えた、他に類を見ない、最新のケース・スタディ・ハウスの試みです。東京大学大学院新領域創成科学研究科の博士の参加もあり、この取り組みの注目度の高さがうかがえました。

参加者みんなで記念撮影

「普段使わない頭を使ったから、疲れたなぁ!」と、満足の笑顔で語る参加者。最後に、それぞれに忙しい中2日間を割いて勉強した仲間で、記念撮影を行いました。町の工務店ネット代表の小池一三は、「この勉強会を皮切りに、全国各地で実地を取り上げながら勉強会を行っていきたい」と、声高らかに宣言をしました。
ご参加のみなさま、講師を務めていただきましたみなさま、ありがとうございました。

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