「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を」
スサノオノミコトが、ヤマタノオロチからクシナダヒメを救い、妻に娶ったときに詠んだというわれる歌です。
雲が出ずる、といわれる地、島根県出雲市で、去る6月14日〜15日に、第一回の地域適性化住宅研究会「びおセミナー」が開催されました。
出雲市駅から、駅前のシャッター街を抜けて、目指すは今回のホスト工務店、藤原木材産業の最新モデルハウス。
建築家・半田雅俊さんの設計による、「びおハウスH」です。高性能な躯体と、自由な内部構造を持った、可用性の高い住宅です。5月にオープンしたばかりですが、すでにこのモデルを見学して、藤原木材産業に仕事を依頼されたお客さんがもう何組も出ているという好評ぶりです。
屋根に見えるのは、びおソーラーの集熱ユニット。より多くの太陽熱を集めるために、パネル部分の勾配をきつくしています。
半田さんの説明に聞き入る参加者の皆さん。
手の物語のJパネル30と、公開されている型紙で作った家具。手作り感が好評とのことでした(型紙は無料でダウンロードできます)。
つづいて、建築家・趙海光さんの設計による川沿いに建つ現代町家。
大勢でおじゃましましたが、なんとお施主さんは留守。工務店とお施主さんの信頼関係が垣間見えます。
故・永田昌民さんの設計の家。この建物は、以前も町の工務店ネットで見学させていただきましたが、竣工から8年の経年美に惚れ惚れしました。
2009年に「びお」に掲載したこの建物の記事です。
続いて、まちを見るパートへ。
出雲市駅前のシャッター街とはうってかわった、旧平田町(現・出雲市)の、「木綿街道」を、地元で設計事務所を営み、木綿街道のまちづくりアドバイザーでもある石川良一さんに案内いただき、歩きます。
かつては木綿の水運で栄えた町でした。流通の主役が陸送に変わった現在も、シャッター街のように廃れることなく、古い街並みと今の暮らしがほどよく溶けこんでいます。この風情を残したい、楽しみたい、という地元の人たちの気持ちが、町をつくり、維持しているのでした。
ここからは、翌日14時までみっちり座学です。
ホスト工務店の藤原木材産業・藤原徹社長から。
出雲は歴史あるまちですが、現在は、経済的な面でも、天候の面でも、決して恵まれた土地とはいえません。けれど、その町で生きる工務店として何をなすか。風景をつくること、住みたくなるまちをつくってきた仕事を通じて、その意気込みが伝わってきます。
初日の特別講演として、服部圭郎さん(明治学院大学経済学部経済学科教授)から、「これからのまちづくりの課題と可能性」と題して、まちと人の関係について、熱く、楽しく語っていただきました。
まちがどんな課題を抱えているのか。一方でどんなポテンシャルがあるのか。再生することは可能なのだろうか。普段、工務店が考えるテーマではないように見えるかもしれませんが、鳥の目・蟻の目、両面でものごとを考えると、普段見えなかったものが見えてきます。
結局のところ、商店街は車を通すようになったことで、人の流れを分断して衰退してしまってきたのです。冒頭に見た出雲市駅前商店街も、まさにそうでした。どうやったら人間中心の生活空間が作れるか。これがまちの再生のキーワードであり、住まいづくりにも通底するところです。
夜の部。懇親会です。こっちが本番、なんていう人もいます。
スクール形式の勉強会とはまた違う勉強が、この場所にはあります。
初日と二日目で、参加者同士の密接度が、ガラッと変わっていたりして…。
いっしょに食事をする、お酒を交わす、ということの良さ、いつもながら改めて身に沁みます。
二日目。ついさっきまで懇親会の続きをやっていた、なんていう人が出るので、事務局としては、眠らせないように、どれだけ面白いプログラムを組めるかが肝です。
町の工務店ネット代表・小池一三からは、「新しく始めようとしていること」として、「住まいマガジンびお」を発表しました。
詳しくは下のリンクから。
建築家・趙海光さんからは、「町をつくる家」と題して、いま取り組んでいる愛知県蒲郡市での取り組みの紹介です。
4件の家でつくる鎮守の森みたいな町角。シェアする暮らしとプライベートな暮らしをうまく混ぜ込んで、一軒の家から、町を作る家へ。
この計画は、75年のリースホールド(定期借地)で進められます。完成が楽しみですね。
基調講演その1は、建築家・堀部安嗣さんの「ベーシックハウスを考える」
日本語の「建築」とは、「building」と「architecture」の両方の意味を持つ言葉になっている。数値や性能で測りやすいbuildingと、測りにくいarchitecture。本来どちらも大切な要素の中、building隆盛の時代だけれど、風景をつくるのは、architecture。
自身の影響を受けた建物・風景と、そして生まれた自作の紹介を通じて、日本のベーシックな風景、そして風景たる家をつくる、という静かな気迫に、参加者一同、背筋がピンと伸びた感じです。
基調講演その2は、斎藤雅也さん(札幌市立大学教授・建築環境学)から。
「不快でない環境」から「快適な環境」をどのように作っていくか。一見するとカタい話になりそうなテーマを、札幌・円山動物園のオランウータンを例に、わかりやすく、たのしく解説していただきました。
オランウータンは熱帯の動物です。ところが、夏の動物園ではぐったりしていて動かない。気温こそ低くても、床や壁(周壁)温度が高いと、そこからの放射熱がすごいのです。これを解決することで、オランウータンは元気を取り戻し、動物園の入場も増えたという逸話は、実は住まいにも同じことがいえます。夏に空気温(気温)だけが低くても、必ずしも快適とはいえないこと。
そして、暑さ、寒さというのは、絶対的なものではないこと、体感温度というより、想像温度が、人や地域によって違うこと、それらを踏まえた室内環境の作り方には、どんな要素があるのか。まだまだ学ぶことはたくさんあります。
最後のプログラムは、「高断熱・高気密住宅の次のステージは?」と題したパネルディスカッション。
パネリストは、基調講演から引き続き、斎藤雅也さん、北海道・武部建設の武部豊樹社長、荏原ソフト&計測の荏原幸久さん。
武部さん、荏原さんには、それぞれ現在考えているテーマを語っていただいた上で、パネルディスカッションに入ります。
武部さんからは、北海道で手がける古民家再生を手がけて得た経験と、学んできた高断熱住宅、そして目下一番のテーマとしている職人育成のこと。荏原さんからは、「自然室温で暮らせる家」というテーマに取り組んできたこと、ヒートロス(断熱・気密)とヒートゲイン(熱取得)の両方について、さまざまな選択肢があって、解はひとつではなく、選択は自分でするのだ、という念押しをしつつも、それらの知見を参加者のために活かしたい、という熱意のこもったプレゼンを、それぞれしていただきました。
パネルディスカッションを通じていくつかの気付きがありました。
なかでも、北海道の技術は「極」の技術のように思えますが、実際には春も秋も、短いながらも確実に存在します。とにかく真冬・真夏の極にどういう状態か、ということばかりに着目せず、個々に感じる快適さの違いや、地域の違いも踏まえつつ、「ちょうどいい」という領域をつかむ、ということを目指すのが、次のステージといえるでしょう。
梅雨の間の晴天に恵まれ、二日間のプログラムは幕を閉じました。セミナーで聞いたことを持ち帰って、それぞれの仕事に活かす日々がやってきます。本番はこれからですね。
参加者の皆さん、講師の皆さん、ありがとうございました。
共催:一般社団法人町の工務店ネット・手の物語有限会社
場所:島根県出雲市〜松江市
日付:2017年6月14日〜15日