4月16日〜17日、福岡県を舞台に、『宿谷昌則と悠山想に学ぶ「放射」という方法』と題した勉強会が開催されました。
宿谷昌則先生は、この3月に東京都市大学を定年退職され、現在は同名誉教授として、引き続き、建築環境学の教育に取り組まれています。
建築工房悠山想は、伝統的な構法を活かして、現代型の快適な住まいをつくっている工務店です。
この両者には、共通点があります。それは、建築環境の快適さにおいて、「空気温度」よりも「放射温度」を重要視しているところです。
人体をとりまく環境に放射がどう影響するのか。体感と理論の2日間です。
最初の見学は、築170年の古民家をスケルトン改修した、若い家族が暮らす家。バスの中で、この家族がいかに集落に歓迎され、そして住まいに満足しているかのお手紙が配られました。何度も読んで涙が出そうになった、という参加者も。
曳家をやって、床下に蓄熱用コンクリートを打って…新築のほうが早くて安い、と思うなかれ。古民家には記憶があって、その継承をしたい、と考える人にとっては、改修であることが大事なのです。その思いに見事に応えた建物でした。
こちらの建物は、築100年の母屋に、新築部分をジョイントし、空気集熱式ソーラー「そよ風」を導入しています。他の業者では、母屋を壊す、という前提の話ばかりだったけれど、やはり悠山想が、その思いに応えて、ハレの日の母屋と、ケの日の新築部を見事にマッチさせました。
建築素材の無償性、という言葉があります。かつては、建築は地元にある木、土、石などの材料を集めてつくられました。今では考えられないことですが、いわば「材料を拾ってきて」つくられていたのです。この土壁は、そうした素材の無償性の考えを引き継ぐように、地域でいただいた土を丁寧に施工されています。見事な仕上がりに一堂驚くばかりですが、職人も最初からできたわけではない、といいます。出来る職人がいなくなった、となげく工務店は多いけれど、職人の仕事をつくらなかったからそうなったのです。職人に、ちゃんと仕事を渡せば、こういうかたちで帰ってくるのだな、と実感しました。
古民家改修や、増築の仕事はそうそういつもあるわけではなく、もちろん新築の仕事をします。現代の材料・設備も用いながら、伝統的な構法の知見を活かすとこうなるのか、というのは、参加者一堂、目からウロコが落ちます。
大きな土場を持つ悠山想の社屋。宮本さんならきっと活かせる、と託された古材があったり、社屋も移築だったりと、「らしい」場所です。
12.5間×8間の大ボリュームを、無垢材と土壁、そしてびおソーラーを取り入れた事務所棟は、もうまもなく竣工です。外壁の焼き杉は、現地のワークショップで一枚一枚焼いたもの。これだけの規模でも、いやこの規模だからこそ、手間を惜しまない仕事が結実していました。
座学では、宿谷昌則先生から、「空調(空気調和)」ならぬ「放調(放射調和)」、をテーマにした話と、宮本さんからの、建物への考え方、そして二人を囲んでのディスカッションが行われました。
放射がいかに重要か、その認識は参加者が共通で持つことができました。これから、空気温度だけでなく、放射温度をどう設計に生かしていくか。その計算手法などを今後のテーマとしてかかげ、二日間の会は幕を閉じました。まだまだ、建築で出来ることはたくさんある!