プロジェクト構想 その6

秋山東一の「設計道場ククル分会」と、12年にわたって開かれてきた「設計道場」との違いは何か?ここで何を学べるかを解読します。


建築家秋山東一は、これからの設計者に向けて今までの経験と学びを伝授する。
2016年で74歳を迎える訳だが、後どれくらい教えて頂けるのか?
それは、秋山東一にとっても戦いであり、使命でもある。この道場でしか、伝えられない事を、そして秋山メソッドを少しでも多くの設計者へ繋げて行く事を目指すものである。

「秋山東一設計道場」は、12年間にわたって持続的に取り組まれてきました。

運営は、コスモネット。実施主体はリードスクエア。これを一身に担い、身を粉にして取り組んできたのは、愛知の工務店・コスモホームの鈴木岳紀さんです。

今回、「A2」プロジェクトが開催する「秋山東一設計道場」は、秋山東一による「定番モデル」の設計過程に学び、秋山東一の設計実践から生まれたエッセンスに学び、またアース・カタログや書籍を生むために、「秋山東一設計道場・ククル分会」と名づけ、期間限定で開催される設計道場です。つまり「秋山東一設計道場に関しては、庇をお借りして、期間限定で開催することになります。

書籍編集にあたっては、これまでの「設計道場」で生み出された夥しいまでのエスキスを取り上げ、それを検証するページを設けたいと考えています。この作業は取材を必要としていますので、人働きとお金が掛かります。もしこれをやり切れば、一つのモニュメントというに相応しいものとなるでしょう。ということで、鈴木岳紀さんに、これまで開かれた「設計道場」の開催年と開催地、協力会社 (建物見学や工務店訪問先でもある) について一覧表にしていただきました。

私は、これは圧倒的な事績であると受け止めています。「秋山東一設計道場」は、期間限定の「ククル分会」開催中も開かれており、もっと秋山さんの元で勉強したい人や、事後、引き続き勉強したい方は、「秋山東一設計道場」の門を叩いてください。

■ 秋山設計道場開催記録
開催地協力会社
2009年 第1クール
1名古屋コスモホ-ム
2名古屋コスモホ-ム
3名古屋コスモホ-ム
4名古屋コスモホ-ム
5東京岡庭建設
6名古屋コスモホ-ム
2009年 第2クール
7名古屋コスモホ-ム
8名古屋コスモホ-ム
9名古屋コスモホ-ム
10東京創研舎
12名古屋コスモホ-ム
2010年 第3クール
1名古屋コスモホ-ム
2鹿児島シンケン
3名古屋コスモホ-ム
4名古屋コスモホ-ム
5名古屋コスモホ-ム
6長野美登利屋工務店
2010年 第4クール
7名古屋コスモホ-ム
8滋賀平野住建
9島根リンケン
10名古屋コスモホ-ム
11栃木吉田工務店
12名古屋コスモホ-ム
2011年 第5クール
1名古屋コスモホ-ム
2讃岐/香川菅組
3名古屋コスモホ-ム
4伊那/長野北沢建築
5名古屋コスモホ-ム
6名古屋コスモホ-ム
2011年 第6クール
7名古屋コスモホ-ム
8北海道小松建設
9京都ツキデ工務店
10名古屋コスモホ-ム
11甲府小澤建築工房
12名古屋コスモホ-ム
2012年 第7クール
1名古屋コスモホ-ム
2鹿児島シンケン
3名古屋コスモホ-ム
4名古屋コスモホ-ム
5大阪羽根建築工房
2012年 第8クール
8島根リンケン
9東京岡庭建設
10名古屋コスモホ-ム
11甲府小澤建築工房
12鹿児島シンケン
2013年 第9クール
2名古屋コスモホ-ム
3町田/東京鈴木工務店
4東京/筑波伊礼智氏
5軽井沢/長野益子義弘氏
6名古屋コスモホ-ム
2013年 第10クール
7名古屋コスモホ-ム
8福岡マキハウス
9名古屋コスモホ-ム
10高知矢野工務店
11名古屋コスモホ-ム
2014年 第11クール
1名古屋コスモホ-ム
2富士/静岡マクス
3名古屋コスモホ-ム
4姫路/兵庫山弘
5名古屋コスモホ-ム
2014年 第12クール
7名古屋コスモホ-ム
8東村山/東京相羽建設
9豊川/愛知イトコー
10北海道小松建設
11名古屋コスモホ-ム
2015年 第13クール
1名古屋コスモホ-ム
2東京内藤恒方
3姫路プレスト
4浜松入政建築
5名古屋コスモホ-ム
2015年 第14クール
7名古屋コスモホ-ム
8広島沖田
9静岡野沢工務店
10甲府小澤建築工房
11名古屋コスモホ-ム
2016年 第14クール
1名古屋コスモホ-ム
2山口原工務店
3兵庫坂井建築事務所
4北海道小松建設
5岐阜エムズアソシエイツ
2016年 第15クール
7名古屋コスモホ-ム
8木曽村上工務店
9鹿児島ベルハウジング
10熊本ミズタホ-ム
11名古屋コスモホ-ム
2017年 第16クール
1名古屋コスモホ-ム
2福岡長崎材木店
3宮崎松元建設
4讃岐菅組
5宝塚シーエッチ建築工房
6海外北欧・ドイツ視察
2017年 第18クール
7宇都宮中村ハウジング
8島根リンケン
9豊田梅村工務店
10千葉佐野工務店
11名古屋コスモホ-ム
2018年 第19クール
1名古屋コスモホ-ム
2狭山ゆたか建設
3鹿児島新越建設
4福知山/京都道下工務店
5福島ホテリアアルト
6海外米国視察
2018年 第20クール
7富山フラグシップ
8福岡先駆建設
9酒田伊藤住宅
10広島小佐木島
11木曽村上工務店
2019年 第21クール
1名古屋考建
2明石日置建設
3古河茨城リライフ野原
4大阪木村工務店
5岩国/山口ネストハウス
6海外スイス・フランス
2019年 第22クール
7横須賀北村建築工房
8岩国/広島鈴木敏司
9湘南西川リビング
10豊川イトコ-
11名古屋コスモホ-ム
2020年 第23クール
1名古屋コスモホ-ム
2大阪田中工務店
3東京尚建築工房
4長崎/zoom吉田建設工業
5長野/zoom北沢建築
6千葉/zoom佐野工務店
2020年 第24クール
7甲府小澤建築工房
8静岡野沢工務店
9俵屋・京都住暮楽
10大分幸建設
11京都ツキデ工務店
2021年 第25クール
1名古屋/zoomコスモホ-ム
2神奈川/zoomあすなろ建築工房
3長崎フルマークハウス
4宮城建築工房 零
5新潟オーガニックスタジオ
6海外
2021年 第26クール
7富山辻工務店
8北海道
9俵屋・京都セイチョー
10長野/zoom北沢建築
11福岡でんホーム
理想は、無名性、あるいは匿名性の設計

フォルクスハウスを始めたとき、秋山東一がしきりに言っていたのはアノニマス(anonymous)性ということでした。名無しのもの・無名性・匿名性と訳されますが、デザインの本質はそこにあると考えてのことと、私は解しました。

よく言われるのは、フォークとナイフの話です。狩猟民が捕獲した動物を食すための道具は、最初は自分の手でした。千切る・裂く・口に入るように小さくするために手を用い、その発展形がフォークであり、ナイフです。フォークで押さえてナイフで切ることができるようになりましたが、それは誰が発明したわけでなく、まさにその営為そのものが形になって押し出されたわけです。コップがなぜ今の形になったのか、この世の中の便利なものは、大体、そんなふうにして成立しました。

町工ネットの「お日さまの会」の建築家の一人である河合俊和は、イタリアの建築家でありプロダクト・デザイナーでもある、アンジェロ・マンジャロッティのお弟子さんですが、マンジャロッティの有名な言葉に、「建築の歴史を学ぶことは重要です。でもそれは建築家の歴史ではない」というのがあります。この言葉は、デザインに限らず、マンジャロッティが終生取り組んだメインテーマである「プレファブリケーション」=「無名性」の哲学に基づいています。

伊藤ていじは、日本の民家は、各地に自生するキノコのようなものだ、と『民家は生きてきた』(美術出版社)という本のなかで書いています。日本の茅葺屋根の造形、町家に見られる数々の意匠は、誰いうことなく生まれ、生活の中に息づきました。

われわれが造るものも、そういうものとしてあれば、それが最高なんだ、と秋山東一はいうのです。

藤森照信は、「焼け跡のプレハブ住宅」(『昭和住宅物語』発行: 新建築社)の中で、車について言及し、それは「動く居室」だといいました。私がこの話を実感したのは、中越地震のときでした。中越地震の震源は、地下13kmで発生したため825回もの有感地震が起こりました。余震の恐怖におびえた人たちが逃げ場所にしたのが、動く免震装置であり、車内が広いファミリーカーでした。

最近、コロナ禍によってキャンピングカーが流行っていますが、人はどんな事情に置かれても生き抜く術を編み出すものです。

文 小池一三