【報告】日本海側気候と住まいのデザイン

 [2021年03月06日]

2021年2月25日 オンラインにて

この冬に度々見舞われた豪雪の影響もあり、当初予定の1月から日程を変更して行われた「日本海側気候と住まいのデザイン」。オンラインにて実施しました。
この前日も日本海側は大雪で、登壇者のみなさんからは、より一層のリアリティをもって日本海側気候を語っていただきました。

プログラムは、4つのパートで構成しました。

  • A. ずっと雪と向き合い、啓いてきたベテラン3人の話を聞こう。
  • B. 雪と住宅をめぐる科学の話
  • C. 図面を開いて、雪国の住まいを語ろう。
  • D. 最近の仕事から

A. ずっと雪と向き合い、啓いてきたベテラン3人の話を聞こう。

北海道岩見沢市 武部建設 武部豊樹さん

北海道の武部建設・武部社長からは、北海道の開拓の歴史を踏まえた家づくりの話を伺いました。
北海道には、入植者それぞれの地域から持ち込まれた古民家が多く残ります。そうした古民家を改修・再生し、北海道の新築と同等の断熱性能を確保しています。
設計時の断熱性能がしっかり発揮されるためには、大工の技術がどうしても必要です。木構造については大工の理解度は高いけれど、暖かい家をつくるためには、目に見えない熱・湿気を理解していないと改修工事はできません。そうしたことを踏まえて、大工の育成に取り組んでいる話を伺いました。


新潟県長岡市 高田建築事務所 高田清太郎さん

新潟県長岡市を本拠地とする高田建築事務所・高田会長からは、雪とデザインのお話が。積雪荷重をどう対策するか。建築デザインで生活上の問題解決ができるかというテーマについて、安定をテーマにした耐雪の「やじろべえ住宅」、耐雪+落雪ハイブリッド型の多塔屋根など。自社で取り組んできたさまざまな雪に対する取り組みを紹介いただきました。
耐雪センサーを実験等を作ってたわみの実験も行ってきて、防災科研との共同なども行われているとのことです。そうしたアカデミックな取り組みがある一方で、近年は、町並みを作っていた雁木がつながらなくなってきて、雪国の風景も崩れつつあります。そうした中に、個別の住宅で雁木の意匠を取り入れるなどの試みも。


新潟県十日町市 フラワーホーム 藤田真実さん

平時でも豪雪地で知られる、新潟県十日町市を拠点とするフラワーホーム・藤田会長からは、十日町市や津南町での豪雪と、そんな雪の中、工事が進む住宅の紹介をしていただきました。藤田さんが考える雪国の家づくりには、「5つの原則」があるといいます。

  1. 道路付けがよいこと
  2. 屋根雪処理が容易であるかどうか
  3. 維持管理費・光熱費を安く
  4. その場の特性を考える
  5. さりとて、美しく、美しく、美しく。

また、保有する山の材を活用するために、構造材だけでなく、化粧材にも四寸角の材からとったものを使う住宅を考案し、実施が進んでいることも紹介されました。


B. 雪と住宅をめぐる科学の話

東京都市大学名誉教授 LEXSdesign研究室 宿谷昌則さん

建築環境学者の宿谷昌則先生からは、「内なる自然 身近な自然 見遠な自然と住まいの環境デザイン」と題してお話をいただきました。日本海側にかかる筋雲を例に、熱力学で解く導入部から、環境の入れ子構造のこと、パッシブ型とアクティブ型技術の理解(どちらがいい、という話ではなく)、そしてエクセルギーの話と続いていきます。物理学者で随筆家でもある中谷宇吉郎の『雪は資源である』を引きながら、蓄雪室に蓄えた雪を使った場合のエクセルギー消費の少なさを教えていただきました。遠くから資源を運んできて発電して…というプロセスに比べて圧倒的な少なさです(上図)。
空から資源が降ってきた、という認識は、今の日本にはほとんどないけれど、これから10年、20年、30年先を考えるときには、こうした考えが非常に大切です。
エクセルギーなどを知らなくても、人は、どこに入れば過ごしやすいかを経験的に知っています。そうしたことを、科学で解明できるようになってきたのが宿谷さんのこれまでの仕事です。そして、そういう考え方、ものの見方は、家づくりにも大いにヒントになるはずです。


もるくす建築社/佐藤欣裕建築設計事務所 佐藤欣裕さん

もるくす建築社の佐藤さんは、宿谷先生を招いて東北で勉強会を行っています。宿谷先生と同時代に生きて学べることが本当によかった、という佐藤さんからは、その勉強会でどのようなことを学んでいるかを紹介しつつ、建築事例を通じての取り組みを語っていただきました。
最近のテーマの一つが、断熱や構造の関係で、材料が太く大きくなっていくなかで、どうやって建築をまとめるか、ということにあるそうです。古くなってもよくなる、厚みがちゃんとある材料を見直して、科学的捉えて建築にフィードバックすること。多く接着剤を使ったり、ゴミを出したりということを回避したいと考えています。
そういうテーマを持った建設中のアトリエを紹介いただきました。温熱環境は大事だし、ダイレクトゲインも大事だけれど、すべてを盲目的に受け入れるのではなく、もうちょっとシンプルにやりたい、という言葉に感銘を受けました。かたや高性能なゴアテックス。かたや、ツイードのジャケットに傘をさすようなイメージ。なるほど性能だけならゴアテックスの勝ちですが、風合いとか長持ちとか、そういうことを考えると、違った答えが見えてきますね。


C.図面を開いて、雪国の住まいを語ろう。

このパートでは、富山・新潟の4社から、それぞれの地域性をどう読んで、いかに冬を楽しく暮らせるか、ということを語っていただきました。

富山県富山市 建築工房アシストプラスアルファ 沢本勇太さん
富山県中新川郡立山町 木の香 前川建築 川瀬由絵さん
新潟県糸魚川市 カネタ建設 伊藤正之さん
富山県下新川郡朝日町 家印 坂東秀昭さん

沢本さんからは、静岡県で修行をしていた経験から、冬季の富山と静岡の違いを聞きました。11月〜2月ごろの冬の相対湿度がかなり違い(富山が高い)、日照も11月〜2月ごろまで、差が大きい。では気温はどうかというと、実はそんなに変わりません。積雪地だからといって極端に寒いわけではないのです。そういう地域だからこそ、たまに太陽がでるとすごくありがたく感じる、ということから、遠くの景色が見えるところはどこか、という設計術のお話しを。性能も大事だけれど、そうしたメンタル要素のほうが大きいのでは、というのが印象的でした。

前川建築 川瀬さんからは、
図面と写真をベースに、その家からどんな風景が楽しめるか、ということをプレゼンテーションいただきました。どの部屋にいても窓から景色が楽しめる家。その土地で家を建てることにした一番の理由を設計に落とし込んでいます。そうやって「ありのままが特別なくらし」を実現しています。ステイホームだったここ一年も、家で楽しんでいただいている様子が聞けました。

カネタ建設 伊藤さんからは、地域で古くからある雪とつきあうしつらえの紹介から、自社での雪と外部動線の配慮、調質を考慮した材料選びなどを聞きました。南面の日射(≒暖房エネルギー)もできるだけいっぱいもらおう、ということで、吹き抜けも大事にしています。北に海、南に山があるので、山の景観を狙って開口部を設ければ、日差しも一緒についてくる、というのは、まさに日本海側ならでは。

家印 坂東さんは、行政と連携して、富山県朝日町に「お試し住宅」という制度をつくり、海暮らし、山暮らし、町暮らし、里暮らしの4軒の空き家を活用した住宅を準備しています。今回、海暮らしをお試しした人が新築することになり、その計画を紹介いただきました。家印は町と共に移住定住・空き家対策に取り組んでいる。家印という存在がインフラになりつつあり、新しい工務店像を生み出しています。

発表したみんなが「景色を大事にしている」ということが印象的でした。日差しの嬉しさも含めて、その地にある魅力を最大限に活かす、という4社のお話しでした。


D. 最近の仕事から

このパートでは、日本海側の仲間である、秋田県・むつみワールド 佐々木社長と、島根県・建装 安食社長から、お仕事の紹介をしていただきました。

秋田県秋田市 むつみワールド 佐々木克巳さん

佐々木社長からは、工務店仲間とつくった町や、自社だけでとりくんだ分譲地の紹介がありました。町を作る、というのは、単に土地を開発して販売する、ということではなく、その近隣に暮らす人たちと関係を作っていく、ということを改めて認識しました。

島根県出雲市 建装 安食泰夫さん

安食社長が紹介するのは、松江城の城下町で取り組んだ歴史的建築物が残る地域で、町並みを保存しながら新しい分譲地をつくる、という難しいテーマですが、それを実現し、グッドデザイン賞を受賞しています。もともとあった醤油工場にあった醤油樽は、塀などに再利用されました。

おわりに

島根県・藤原木材産業 藤原徹社長に結びの言葉をお願いしました。

出雲は雪に対してはそれほど敏感ではないけれど、町づくりの中では、伝統的な瓦を使って作っていきたいと考えて取り組んでいること。いかに「町をつくる工務店」であるか、ということ。性能を担保しながら心地よい風も楽しむ暮らしを、お客様に提案しています。

また、これまで島根県で一緒に取り組んできた、リンケンの田村浩一さんが急逝されたことにも触れられました。あらためてご冥福をお祈りするとともに、田村さんの仕事から学んだものを受け継いでいくことが、私たちの責務でもあると強く感じました。


最後に、新しい町の工務店ネットの取り組み、「A2プロジェクト」を紹介して、約5時間のプログラムは終了しました。

プロジェクト特設ページはこちらから
https://machi-no-komuten.net/a2-project